整備に慣れた頃が一番危ない|整備士が実際に起こした4つの作業ミス【第4話】

整備・検査の現場体験
整備士 整子
整備士 整子

社長、新治から新人時代の話を聞きました。

入社して1年ほどで、上司から「整備士らしくなってきた」と言われたそうですね。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

ずいぶん詳しく聞いたんだな。

確かにそう言われたよ。でも、整備士らしくなったからといって、失敗しなくなったわけではない。

整備士 整子
整備士 整子

任される作業が増えれば、それだけ自分で判断する場面も増えますからね。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

整子は、部品が外れないときはどうする?

整備士 整子
整備士 整子

まず、外れない理由を考えます。

見えない場所にネジが残っていないか、どこにツメがあるのか、外す方向が間違っていないか。構造が分からないまま、力任せに引っ張ることはしません。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

その考え方が、当時の私にはなかったんだ。

外れなければ、「まだ力が足りないのだろう」と考えてしまうことがあった。

整備士 整子
整備士 整子

私は子どもの頃、壊れた家電や身の回りの物を、すぐに買い替えられるような家庭ではありませんでした。

捨てるのがもったいなくて、直せそうなものは構造を見ながら自分で直していたんです。

そこでさらに壊してしまったら、代わりの物はありません。だから、無理に動かす前に、なぜ外れないのかを考える癖がついたのだと思います。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

私は高校生になるまで、車の知識がほとんどなかった。

物を分解して直す経験も、整子ほど多くなかったからね。構造を見て考える力は、現場で失敗しながら覚えていったんだ。

整備士 整子
整備士 整子

その失敗というのが、前に話していたボルトの折損や、部品を傷つけてしまった経験ですか?

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

そうだよ。

作業に慣れ始めた頃には、固着したホイールナットを力任せに緩めてハブボルトを折ったり、外れない部品を無理に外してツメを割ったりした。

技術が身についてきたと思った頃ほど、自分の判断を過信していたのかもしれない。

二級自動車整備士の資格を取得し、点検や車検整備、重整備を経験しても、失敗がなくなったわけではありません。

任される仕事が増えるほど、ボルトの締め付け、部品の脱着、車体の養生など、自分の判断に委ねられる場面も増えていきました。

今回は、整備の仕事に慣れ始めた頃に起こした作業ミスと、その失敗から身につけた確認や段取りについて振り返ります。

廃油を全身に浴びてしまった

整備士にとって、エンジンオイルの交換は、作業する機会の多い基本的な整備の一つです。

私も何度か経験し、手順には慣れてきたつもりでした。しかし、その慣れから油断してしまったことがあります。

オイルパンのドレンボルトを外したとき、私は勢いよく流れ出す廃油の正面に立っていました。

ドレンボルトが外れた瞬間、廃油が受け皿へ向かわず、私の作業着へまともにかかりました。避ける間もなく、全身で廃油を浴びてしまったのです。

作業着は一着台無しになり、当然、床もオイルまみれになりました。

そのまま車をリフトから降ろせば、タイヤにオイルが付着したり、足を滑らせたりするおそれがあります。まずは床に広がったオイルを処理し、周囲を清掃しなければなりませんでした。

清掃を終えてから車を降ろし、新しいエンジンオイルを入れて、ようやく本来の作業が完了しました。

しかし、まだ問題が残っています。

作業を終えた車は、ショールーム前まで移動しなければなりません。廃油まみれの作業着のまま、お客様の車へ乗り込むわけにはいきませんでした。

私は事情を説明し、先輩に車の移動をお願いしました。

すると、先輩からこう言われました。

「全身でオイルを浴びるやつは、初めて見た」

オイル交換には慣れてきたつもりだった私にとって、まさに「河童の川流れ」でした。

ただし、この失敗は運が悪かったから起きたものではありません。廃油が流れ出す方向を確認せず、受け皿と自分の立ち位置を十分に考えていなかったことが原因です。

慣れた作業ほど、基本的な確認を省略してしまうことがあります。

簡単に見える作業であっても、作業を始める前に、オイルがどの方向へ流れるのか、受け皿の位置は適切か、自分はどこに立つべきかを考える。その大切さを、私は廃油まみれになって覚えました。

固着したホイールナットを緩めようとしてハブボルトを折った

車の整備では、点検や車検、タイヤ交換などでホイールを取り外す機会が多くあります。

その日も私は、いつもどおりホイールナットを外そうとしました。

しかし、工具に力をかけても、ナットがまったく緩みません。

ナットは錆によって固着していました。

それでも当時の私は、「もっと強く力をかければ外れるだろう」と考え、力任せに緩めようとしました。

そのときです。

「ポキッ」

という音とともに、ナットではなくハブボルトが折れてしまいました。

折れた音を聞いた瞬間、取り返しのつかないことをしてしまったと思いました。

しかも、作業していたのは車検整備でお預かりした車です。お客様への納車日も決まっていました。

ハブボルトを交換しなければ、そのまま車をお返しすることはできません。しかし、交換するための部品は在庫になく、取り寄せる必要がありました。

事情をお客様へ説明して謝罪し、納車を延期してもらいました。その後、取り寄せたハブボルトへ交換し、検査を終えてから車を納車しました。

当時の職場では、この修理にかかった費用を私自身が負担することになりました。

ハブボルトが折れた原因には、錆による固着や部品の劣化、それまでの締め付け状態なども関係します。そのため、折損のすべてが、緩めたときに加えた力だけで決まるわけではありません。

それでも、通常とは明らかに違う抵抗を感じた時点で、一度作業を止めるべきでした。

なぜ緩まないのかを考え、先輩へ相談し、部品が折れる可能性も想定したうえで作業方法を判断する。その手順が、当時の私には足りていなかったのです。

「外れないなら、もっと力をかければいい」

その考え方が、部品の破損だけでなく、お客様への謝罪や納車の延期にもつながりました。

この経験から、工具へ伝わる普段とは違う感触を無視せず、異常な抵抗を感じたときほど、一度手を止めて原因を考えることの大切さを学びました。

整備士 整子
整備士 整子

私なら、まず作業を止めてねじ部の状態を確認します。浸透潤滑剤を使い、時間を置く方法も考えます。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

当時の私は、目の前のナットを外すことしか考えていなかった。部品が壊れる可能性まで想像できていなかったんだ。

見えない裏側まで想像できなかった

私が起こしたのは、点検や部品交換での失敗だけではありません。

ディーラーの整備士には、新車へオプション部品を取り付ける仕事もあります。

ある日、私は新車のテールゲートへエアスポイラーを取り付ける作業を任されました。

スポイラーを固定するためには、テールゲートのパネルへドリルで穴を開けなければなりません。

新車のボディへ自分の手で穴を開ける。

やり直しができない作業は、当時の私にとって恐怖そのものでした。

ドリルの刃先が滑らないように、まず取付位置を慎重に確認し、ポンチを使って穴を開ける位置へ小さなくぼみをつけました。

位置決めを終え、いよいよドリルで穴を開け始めます。

しかし、力をかけてもなかなかパネルを貫通しません。

位置がずれて新車のボディを傷つけたらどうしよう。早く穴を開けて、この緊張から解放されたい。

そんな思いから、私は次第に焦り始めました。

そして、さらに力を加えた瞬間、ドリルの刃がパネルを貫通しました。

「やっと穴が開いた」

そう思ったのも一瞬でした。

貫通した勢いのままドリルが奥へ進み、反対側にあるパネルへ接触してしまったのです。

最初は、「裏側なら外から見えないし、問題ないのではないか」と思いたくなりました。

しかし、損傷した鉄板は内側から押し出され、外から見えるボディ表面に、小さなおできのような膨らみができていました。

見なかったことにはできません。

私はすぐに上司へ報告しました。

当然、上司からは厳しく叱られ、傷つけてしまったテールゲートは交換することになりました。

お客様にも、新車の部品を交換することになった経緯を説明し、謝罪しなければなりません。

場合によっては、車の購入そのものをキャンセルされてもおかしくない。私はそれも覚悟していました。

しかし、事情を聞いたお客様は、

「全然気にしなくていいよ」

とおっしゃってくださいました。

その言葉に救われ、テールゲートを交換した後、無事に車を納車することができました。

もちろん、お客様が許してくださったからといって、私の失敗がなくなるわけではありません。

当時の私は、穴を開ける位置ばかりに気を取られ、ドリルが貫通した先に何があるのか、どこまで刃が進むのかを十分に考えられていませんでした。

見えている表面だけでなく、その奥にある部品やパネルまで想像する。さらに、ドリルの刃が必要以上に入らないよう、深さを管理する。

作業する場所の位置だけでなく、その先にあるものまで確認する大切さを、私は新車のテールゲートを傷つけるという失敗から学びました。

寒い年末、ナビ取付中にパネルのツメを折った

12月の寒い時期でした。

当時の職場では、年内の納車を希望するお客様が重なり、毎年のように納車ラッシュを迎えていました。

新車の納車前には、ナビやETCなどの用品を取り付けなければなりません。そのため、整備工場には用品取付作業が集中していました。

私も、それまでに相当な数の用品を取り付けていました。

この頃の私は、作業にも慣れ、かなりの自信を持っていました。

「ナビの取付けくらい、目をつぶっていてもできる」

今振り返れば、技術が身についたというより、慣れによって油断していたのだと思います。

そんな年末のある日、発売されたばかりの新型車にナビを取り付けるよう指示を受けました。

ナビを取り付けるには、まず周辺のパネルやガーニッシュを取り外す必要があります。

私は、ビスやボルトで固定されている場所がないかを確認し、念のため作業マニュアルにも目を通しました。

マニュアルを見る限り、取り外そうとしていたパネルはツメで固定されています。

ところが、実際に引っ張ってみても、なかなか外れません。

当時の私は、

「ツメだけで固定されているのなら、引く方向さえ間違えなければ外れるだろう」

と考えました。

パネルやガーニッシュを取り外すときは、最初に強く力をかけ、外れ始めたらすぐに力を緩める。その感覚で、これまで何度も作業してきたからです。

私はツメの向きを意識しながら、パネルを勢いよく引きました。

その瞬間です。

「パキッ」

という嫌な音とともにパネルが外れました。

確認すると、裏側のツメが折れていました。

この時期にパネルを取り外すときは、特に注意しなければなりません。

理由は、寒さです。

内装に使われている樹脂部品は、気温が低くなると柔軟性が低下し、普段より割れやすくなることがあります。

夏場や暖かい工場内では問題なく外せたパネルでも、冷え切った状態で同じように力をかけると、ツメが折れることがあるのです。

しかし、そのときの私は、これまでの経験と感覚だけで作業していました。新型車であることや、年末の寒さによって樹脂が硬くなっていることまで考えられていませんでした。

折れたパネルは、そのまま使用できません。当然、新しい部品へ交換する必要があります。

ところが、すでに年末で部品の供給も休みに入り始めていました。すぐに注文しても、納車日までに部品が届く見込みはありません。

しかも、その車の納車は翌日に迫っていました。

翌日に納車を控えていたため、自分のミスで予定を変更させてしまうかもしれないと、血の気が引きました。

そんな状況で救いになったのが、同じ新型車の展示車でした。

偶然にも、お客様の車とほぼ同じ時期に、同型の展示車が店舗へ入っていたのです。

上司と担当営業へ事情を報告し、許可を得たうえで、展示車のパネルを使用させてもらうことになりました。

展示車からパネルを慎重に取り外し、お客様の車へ取り付けました。その後、ナビの取付けと作動確認を終え、どうにか予定どおり納車することができました。

展示車がなければ、納車を延期してお客様へ謝罪しなければならなかったでしょう。

この失敗以降、私は寒い時期の内装部品を、いきなり力任せに外さないようになりました。

ドライヤーを用意し、樹脂部品を適度に温めてから取り外す。ツメの位置や向きを確認し、必要に応じて内張り剥がしを使う。外れないときは、力を強くする前に理由を考える。

ただし、温風を一点へ当て続けると、部品の変形や変色を招く可能性があります。離れた位置から少しずつ温め、樹脂の状態を確認しながら作業する必要があります。

それまでの私は、作業経験が増えたことで、自分の感覚に自信を持つようになっていました。

しかし、慣れた作業であっても、気温や車種、部品の構造が変われば、同じ方法が通用するとは限りません。

この失敗から私は、作業に慣れてきたときほど、条件の違いを確認する必要があると学びました。

整備士 整子
整備士 整子

社長も、昔はいろいろ失敗していたんですね。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

ああ。最初は慎重でも、慣れてくると基本を省いてしまう。焦っているときは、なおさらだ。

整備士 整子
整備士 整子

慣れと焦りが重なると危ないということですね。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

そのとおりだ。失敗は避けなければならない。でも、起きてしまった失敗を隠さず、原因を考えて次へ生かすことも大切だ。

新治が作業に迷っていたら、一人で抱え込ませず、早めに声をかけてやってくれ。

整備士 整子
整備士 整子

分かりました。社長の失敗も、教材として伝えておきます。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

……そこまで詳しく伝えなくてもいいんだがな。

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