なぜ車両総重量2.8トンが境界?ハイエースと保安基準の関係を検査員が解説

保安基準深掘り
六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

以前、最低地上高の基準を解説したとき、車両総重量2.8トンを超える貨物車には、いわゆる「9cm」という数値基準が適用されないと紹介していたな。

検査員 検子
検査員 検子

はい。最低地上高は基本的に9cm以上必要で、ホイールベースやオーバーハングに応じた計算式もあります。

ただし、車両総重量2.8トンを超える貨物車は、これらの数値による判定の対象から外れます。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

その説明をしたとき、何か気にならなかったか?

検査員 検子
検査員 検子

実は、ずっと引っかかっていました。現在の安全基準で使われる3.5トンなら理解できます。

しかし、最低地上高では、なぜ2.8トンなのでしょうか。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

確かに、2.8トンという数字だけを見ると中途半端に感じるな。

検査員 検子
検査員 検子

しかも、ハイエースやキャラバンなどの商用バンには、車両総重量が2.8トンを超える仕様が多くあります。

結果だけを見ると、こうした車を最低地上高の数値基準から外すために、2.8トンという境界を設けたようにも見えます。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

つまり、特定の車種や自動車メーカーに配慮して設けられた基準ではないかと疑っているのか?

検査員 検子
検査員 検子

そこまで断定するつもりはありません。

ただ、なぜ2.8トンなのか。その理由を知らないままでは、検査を受ける人に納得できる説明ができません。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

疑問を持つこと自体は正しい。

しかしだな、特定の車が結果として対象外になることと、その車を優遇する目的で基準が作られたことは別の話だ。

検査員 検子
検査員 検子

では、2.8トンという数字には、どのような意味があるのでしょうか。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

最低地上高だけを見ても答えは出ない。

衝突時の乗員保護や燃料漏れ、車体構造など、ほかの基準との関係も確認する必要がある。

そして、2.8トン超は保安基準全体が緩くなるのではなく、重量車用の別基準に移る項目もある。

検査員 検子
検査員 検子

つまり、「2.8トン超は免除されている」と単純に考えるのではなく、車両区分によって適用される基準が入れ替わるということですね。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

そういうことだ。

それでは、なぜ2.8トンが一つの境界として使われているのか。そして、ハイエースなどの商用車と本当に関係があるのか、順番に確認していこう。


先に結論――「トヨタのための2.8トン」と断定できる証拠はない

最初に、この記事の結論を整理します。

  • 2.8トンは、最低地上高だけでなく、過去の衝突安全基準などでも使われてきた境界です。
  • 現行ハイエースバンの多くが2.8トンを超え、最低地上高の9cmなどによる数値判定から外れることは事実です。
  • しかし、ハイエースやトヨタを優遇する目的で2.8トンが設定されたことを示す公的資料は確認できません。
  • 現行基準では3.5トンまで対象を広げた項目もあり、2.8トンがすべての保安基準に共通する境界ではありません。

したがって、「ハイエースが制度上の恩恵を受けること」と「ハイエースのために制度が作られたこと」は、分けて考える必要があります。

最低地上高の本来の基準は「安全な運行に必要な間げき」

道路運送車両の保安基準第3条では、自動車の接地部以外の部分について、安全な運行を確保できるよう、地面との間に告示で定める間げきを設けることを求めています。

細目告示第7条も、地面との間に「適当な間げき」を有することを基準としています。

つまり、保安基準の本体に、すべての自動車について一律に「最低地上高は9cm以上」と書かれているわけではありません。9cm、ホイールベース、オーバーハングなどの数値は、検査時に「適当な間げき」を判断するため、審査事務規程に示されている判定方法です。

最低地上高を低くする改造が行われた対象車では、主に次の数値を確認します。

確認する部分基準の考え方
自動車下面の固定部分原則として9cm以上
前後の車軸間ホイールベースに応じて必要な高さを計算
前軸より前・後軸より後オーバーハングに応じて必要な高さを計算

ホイールベース間の基準は、おおむね次の式で求めます。

必要な地上高H(cm)=ホイールベースWb(cm)×0.02+4

  • H:必要な地上高(cm)
  • Wb:ホイールベース(cm)

オーバーハング部分は、おおむね次の式です。

必要な地上高H(cm)=オーバーハングOb(cm)×0.11+2

  • H:必要な地上高(cm)
  • Ob:前軸から前方、または後軸から後方までの距離(cm)

この数値による判定の対象として、普通自動車・小型自動車では車両総重量2.8トン以下のものなどが定められています。一方、2.8トンを超える貨物車は、この列挙から外れています。

2.8トン超なら、地面すれすれでもよいわけではない

車両総重量2.8トン超の貨物車には、9cmなどの具体的な数値による判定がそのまま適用されません。しかし、保安基準第3条の「安全な運行を確保できる間げき」という大原則まで消えるわけではありません。

したがって、部品が路面に接触している、通常の走行で接触する危険が明らかに高い、重要な装置が路面との接触によって損傷するおそれがある、といった状態まで無条件に認められるわけではありません。

正確には、次のように表現する必要があります。

車両総重量2.8トン超の貨物車は、最低地上高について何も基準がないのではなく、9cmなどの数値を使った定型的な判定の対象から外れている。

なぜ長い貨物車に同じ計算式を使わないのか

最低地上高の計算式は、坂道、踏切、段差などで車体下面や前後の張り出し部分が路面へ接触しないための考え方です。ただし、貨物車は乗用車よりホイールベースやオーバーハングが長くなる傾向があります。

例えば、ホイールベースが600cmの車に同じ式を当てはめると、必要な地上高は次のようになります。

600cm×0.02+4cm=16cm

後部オーバーハングが250cmの場合は、次のとおりです。

250cm×0.11+2cm=29.5cm

このように、車体が長いほど要求値が大きくなります。貨物車には荷台の高さ、積載性、架装装置の配置など、乗用車とは異なる設計条件があるため、小型車向けの計算式を一律に当てはめると過大な要求になる場合があります。

ただし、確認できる公的資料には、「この計算結果になるため2.8トン超を除外した」と直接説明した記述までは見当たりません。計算式と貨物車の構造から考えられる合理的な背景ではありますが、制度制定者が示した公式理由とは区別する必要があります。

2.8トンは過去の衝突安全基準にも登場する

2.8トンという境界は、最低地上高だけで突然登場した数字ではありません。

国土交通省が過去の車両安全対策を整理した資料では、平成6年4月以降、車両総重量2.8トン以下の貨物車に50km/hでの前面衝突基準が順次適用されたことが示されています。

側面衝突基準についても、当時は乗車定員10人以下の乗用車と車両総重量2.8トン以下の貨物車を対象としていました。

当時の安全基準主な対象として示されていた車両
フルラップ前面衝突乗用車、車両総重量2.8トン以下の貨物車など
側面衝突乗用車、車両総重量2.8トン以下の貨物車など
衝突時の燃料漏れ防止衝突基準と連動して2.8トンが境界になる規定あり
最低地上高の数値判定普通・小型自動車では2.8トン以下などが対象

ここから、2.8トンという数字が単に最低地上高だけの都合で設定されたのではなく、当時の乗用車や比較的小型の貨物車を一つの安全基準群として扱う区分に使われていたことが分かります。

では、なぜ3.5トンではなく2.8トンだったのか

現在の感覚では3.5トンの方が自然に見えます。実際、現行の保安基準第18条では、フルラップ前面衝突や側面衝突について、貨物車は主に3.5トン以下までが対象となる構成です。一方、オフセット前面衝突では2.5トン以下となるなど、衝突方法によって境界が異なります。

つまり現在の制度は、「すべて2.8トンで統一」されているわけではありません。

確認できる資料から、2.8トン以下の貨物車を対象とする前面衝突基準は平成6年から順次適用されています。

その後、日本の保安基準は国連の協定規則との整合が進み、現在は3.5トンという区分を使用する基準が増えています。

この流れから見ると、2.8トンは現在の3.5トン区分より前から国内基準で使われてきた、比較的小型の貨物車を区切る数字と考えるのが自然です。

ただし、なぜ2,700kgや3,000kgではなく、正確に2,800kgと決定されたのかについて、数値の算定過程まで説明した公的資料は確認できませんでした。

したがって、「ハイエースの重量に合わせた」「特定メーカーの要望で決まった」「特定車種を衝突試験から外すためだった」とは断定できません。分かるのは、遅くとも平成6年から、2.8トン以下の貨物車が前面衝突基準の対象区分として使われていたことです。

重い車ほど衝突基準が緩かったのか

結果だけを見れば、過去の制度では2.8トンを超える貨物車が、小型貨物車向けの衝突試験から外れていた部分があります。

そのため、「重い車ほど危険なのに、なぜ衝突試験を免除するのか」と感じるのは当然です。ただし、同じ速度なら重量が増えるほど衝突エネルギーも大きくなり、乗用車と貨物車では車体構造や衝突時の挙動も異なります。

貨物車には次のような特徴があります。

  • ボンネットを持つ車と持たない車がある
  • キャブオーバー型は前輪や運転席が車体前方にある
  • 独立したフレームを持つ車がある
  • 荷台や架装物が完成車ごとに異なる
  • 積載状態によって総重量や重心が大きく変化する

このため、乗用車向けの衝突試験を重量貨物車にそのまま適用すればよいとは限りません。ただし、これも「だから2.8トンに決まった」という公式説明ではなく、車格や構造ごとに試験を分ける技術的な背景として考えられる内容です。

現在は2.8トン超3.5トン以下にも対象が広がっている

現在の保安基準第18条第2項では、フルラップ前面衝突時の乗員保護について、貨物車は車両総重量3.5トンを超えるものを除外しています。裏返せば、本則上は3.5トン以下の貨物車が対象となる構成です。

しかし、適用関係を定める告示には、次のような車両について、従前の基準を適用できる長期の経過措置があります。

  • 車両総重量2.8トン超3.5トン以下の小型貨物車
  • ボンネットを持たないもの
  • 車枠と車体が一体構造のものを除く
  • これと運転席前方の構造が同じ普通自動車

該当車には、製作年月や型式指定時期などに応じて、令和14年(2032年)以降まで続く経過措置が設けられています。

制度は2.8トン超3.5トン以下にも新しい衝突基準を広げる一方、ボンネットを持たない特定構造の車には長い準備期間を設けています。キャブオーバー型商用車の構造上の違いが、制度上も個別に扱われていることが分かります。

ただし、この経過措置にハイエースの各型式が実際に該当するかは、車枠と車体の構造、型式指定時期、製作年月などを個別に確認する必要があります。「ハイエースだから自動的に対象になる」とは判断できません。

ハイエースは本当に「2.8トンの車」なのか

ハイエースについては、「2.8」という数字が二つの意味で使われるため注意が必要です。

一つは、2.8Lディーゼルエンジンです。これは排気量を表しており、車両総重量ではありません。

もう一つが、車両総重量です。

トヨタが公表している現行ハイエースバンの主要諸元では、2WD車だけを見ても、仕様により車両総重量はおおむね次の範囲にあります。

エンジン・仕様の例車両総重量の例
2.0Lガソリン・一部仕様2,880/2,895kg
2.8Lディーゼル・一部仕様3,040/3,055kg
定員・積載量の異なる仕様約3,000~3,205kg

したがって、現行ハイエースバンの多くは「車両総重量がちょうど2.8トン」なのではなく、2.8トンを超えています。

最低地上高について見ると、これらが貨物車であれば、2.8トン以下の普通・小型自動車などを対象とする9cm等の数値判定から外れることになります。

ハイエースでは最低地上高の判定方法がどう変わるのか

例えば、同じように車高を下げた2台の貨物車があったとします。

車両車両総重量最低地上高の考え方
A車2,790kg9cm等の具体的な数値判定の対象になり得る
B車2,810kg2.8トン以下を対象とする数値判定から外れる

わずか20kgの違いでも、審査事務規程上の判定方法が変わる可能性があります。

このように、2.8トンを境に具体的な判定方法が変わることがあります。ただし、これはトヨタだけの特例ではなく、同じ条件に該当するキャラバンや小型トラックなど、他メーカーの貨物車にも適用されます。

ハイエースを意識して設けられた基準なのか

事実として、2.8トンは過去の衝突基準でも使用され、現行ハイエースバンの多くはこの重量を超えています。一方、基準はトヨタ車に限定されず、条件に該当する全メーカーの車に適用されます。

今回確認した国土交通省の基準、適用関係告示、安全対策資料には、トヨタが2.8トンという数値を行政に要求したことや、ハイエースを対象外にする目的で制度が作られたことを示す記述はありません。

したがって、「トヨタの利権で2.8トンになった」と断定することはできません。

自動車業界全体への配慮は考えられる

一方で、新しい安全基準を導入するとき、技術的な実現可能性、メーカーの開発期間、生産中の車種への影響などが考慮されることは不自然ではありません。

実際に、2.8トン超3.5トン以下のボンネットを持たない特定の貨物車には、フルラップ前面衝突基準について長い経過措置が設けられています。

これは、少なくとも制度が商用車特有の構造や開発期間を考慮していることを示します。

ただし、それを「トヨタの利権」と呼ぶには、トヨタによる要望書、審議会の議事録、行政との交渉記録などの具体的な証拠が必要です。そうした証拠がない状態では、国内の商用車メーカー全体に対する技術的・経済的な配慮と捉える方が妥当です。

2.8トン超は保安基準全体が緩くなるわけではない

最低地上高や過去の衝突安全基準だけを見ると、2.8トン超の車が優遇されているように見えます。

しかし、車両が重くなるにつれて、別の基準が適用されたり、より厳しい性能が求められたりします。

代表的なものには、次のような分野があります。

  • トラック・バス用制動装置、ABS、衝突被害軽減ブレーキ
  • 巻込防止装置、後部突入防止装置、前部潜り込み防止装置
  • 大型後部反射器、車線逸脱警報装置、速度抑制装置
  • 重量車用の排出ガス基準

これらは、2.8トンを超えた瞬間にすべて義務になるわけではありません。3.5トン、5トン、7トン、8トン、12トンなど、項目ごとに異なる境界があり、さらに用途、車体形状、製作年月によって適用関係が変わります。

したがって、2.8トン超の車を「保安基準が緩い車」と一括りにするのは正確ではありません。

「免除」と「適用対象外」は同じではない

保安基準を理解するときは、言葉の使い分けも重要です。

区分意味
免除本来適用される基準を、特例や経過措置によって適用しない
適用対象外その基準が想定する車種や重量区分に含まれていない
別基準小型車用ではなく、重量車用など別の基準で審査する

2.8トン超の貨物車について「免除が多い」と感じる場合、この三つが混ざっていることがあります。

実際には、小型車向けの数値基準から外れるもの、経過措置で従前基準を使えるもの、重量車用の別基準に移るものが存在します。

実際の適否は、用途、車種、車両総重量、乗車定員、車体構造、製作年月、型式指定時期などから判断します。最低地上高で数値判定の対象外になっても、同じ考え方が灯火、制動装置、突入防止装置などに通用するわけではありません。

社長と検子の結論

検査員 検子
検査員 検子

2.8トンは最低地上高だけでなく、過去の衝突安全基準などでも使われてきた区分だったのですね。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

そうだ。現在のハイエースバンの多くが2.8トンを超え、最低地上高の数値判定から外れることは事実だ。

検査員 検子
検査員 検子

一方で、トヨタが基準の設定に関与したことを示す資料はなく、他メーカーの車にも同じ条件が適用されるため、「トヨタの利権」とは断定できないということですね。

六車ガレージ社長
六車ガレージ社長

そのとおりだ。数字だけで「優遇だ」と決めつけず、確認できる事実と、そこから考えられる背景を分けることが大切だ。

まとめ

  • 最低地上高の大原則は、安全な運行に必要な地面との間げきを確保することです。
  • 9cmなどの数値判定では、車両総重量2.8トンが一つの境界になります。
  • 2.8トン超の貨物車でも、地面との間げきが不要になるわけではありません。
  • 2.8トンは過去の衝突安全基準でも使われてきましたが、現行基準では3.5トンまで対象を広げた項目もあります。
  • 現行ハイエースバンの多くが2.8トンを超えることは事実ですが、トヨタを優遇する目的で設定されたことを示す資料は確認できません。
  • 特定のキャブオーバー型貨物車には長い経過措置があり、商用車特有の構造が個別に扱われています。

2.8トン超の貨物車は、保安基準がなくなるわけではありません。車検や改造の可否を判断するときは、「2.8トンを超えているから大丈夫」と考えず、確認する基準の適用範囲を一つずつ調べる必要があります。

参考資料

※保安基準の適用は、車種、用途、車両総重量、車体構造、製作年月、型式指定時期などによって異なります。個別車両の適否は、最新の法令、審査事務規程及び当該車両の諸元・構造を確認してください。

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